昭和50年代に分譲された区分所有建物で、建築当時に敷地権の制度がなかったため土地が各区分所有者の共有持分として別に登記されている物件を想定し、「居住用の区分所有財産の評価について」(令和5年9月28日付法令解釈通達)の適用の可否を、通達の用語定義・区分所有法・不動産登記法・昭和58年改正法の附則・国税庁のQ&Aから整理しました。
昭和55年に建てられた分譲の区分所有建物を保有している。
建築当時は敷地権の登記制度がなく、土地は各区分所有者の共有持分として土地登記簿に別に登記されている。
この建物と土地の相続税評価にあたり、現行のマンション評価通達を適用すべきか。
敷地権ではないので区分所有法の定義から外れる気もするが、建物自体は分譲である。
区分建物として登記された分譲建物であれば、敷地権の登記がなく土地が共有持分として別登記されていても、マンション評価通達の適用対象になると考えられます。
敷地権の登記がないことは適用除外の事由ではありません。
違いは、敷地利用権の面積を計算するときに「敷地権の割合」ではなく「土地の共有持分の割合」を使う、という計算方法の点にとどまります。
なお、築年数が古い物件では評価乖離率が1前後になりやすく、補正なしか減額方向の補正になることも多いため、通達を適用しないと過大申告になるおそれがある点にも注意が必要です。
専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利。
権利そのものの定義であり、登記の有無を問わない。土地の共有持分でも借地権でもよい。
マンション評価通達が引いているのはこちら。
敷地利用権のうち、登記され、かつ区分所有法22条1項本文により専有部分と分離して処分できないもの。
敷地利用権の下位概念。昭和59年1月1日施行の改正で創設された登記上の仕組みであり、敷地権でない敷地利用権は当然に存在する。
詳細タブの1章へ(通達の用語定義) 2章へ(二つの概念の整理) 3章へ(旧法建物の位置づけ)
| 状況 | 通達の適用 | 整理 |
|---|---|---|
| 区分建物として登記された分譲建物で、土地は共有持分として別登記(敷地権の表示なし) | 適用あり | 通達1(9)ロにより、敷地面積に共有持分の割合を乗じて敷地利用権の面積を求める。Q&A問11・問12の具体例がこの場合。 |
| 区分建物として登記された分譲建物で、敷地権の登記あり | 適用あり | 通達1(9)イにより、敷地面積に敷地権の割合を乗じる。Q&A問10の具体例。 |
| 区分建物の登記がなく、一棟の建物を複数人で単純に共有している | 適用なし | 通達1(7)の「一棟の区分所有建物」に当たらない。小口化商品も同じ(Q&A問3)。 |
| 土地の共有持分の一部が、区分所有者でない第三者に移っている | その持分は適用なし | 第三者の持分は「専有部分を所有するための権利」ではなく敷地利用権に当たらない。通常の共有土地として評価する。 |
| 地階を除く階数が2以下、または居住用の専有部分が3室以下で全て区分所有者や親族が居住 | 適用なし | 通達1(7)の除外。敷地権の有無とは無関係に登記簿で確認する。 |
詳細タブの4章へ(適用除外の確認) 7章へ(前提が異なる場合)
評価乖離率は築年数が大きいほど小さくなります。築46年前後の物件では、総階数・所在階・敷地持分狭小度の組合せによって、補正なし・減額・わずかな増額のいずれにもなり得ます。
| 総階数 | 所在階 | 敷地持分狭小度 | 評価乖離率 | 評価水準 | 区分所有補正率 | 方向 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 5階 | 3階 | 0.3 | 1.433 | 0.698 | 補正なし | 変わらない |
| 3階 | 1階 | 0.9 | 0.665 | 1.504 | 0.665 | 約3割の減額 |
| 10階 | 8階 | 0.2 | 1.679 | 0.596 | 1.007 | わずかな増額 |
いずれも築46年(A=△1.518)で試算したものです。通達は増額方向にも減額方向にも働く設計であり、要件に該当する以上は適用して計算するものと解されます。
詳細タブの5章へ(算式と試算) 6章へ(共有持分の割合の取り方)
「居住用の区分所有財産の評価について」(令和5年9月28日付課評2-74ほか1課共同・法令解釈通達。以下「マンション評価通達」)は、令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した財産に適用されます。
適用の可否を判断する用語は、通達1に定義されています。
区分所有者(区分所有法第2条第2項に規定する区分所有者をいう。)が存する家屋(地階を除く階数が2以下のもの及び居住の用に供する専有部分(同条第3項に規定する専有部分をいう。)一室の数が3以下であってその全てを当該区分所有者又はその親族の居住の用に供するものを除く。)で、居住の用に供する専有部分のあるものをいう。
「区分所有者が存する家屋」とは、区分建物として登記がされている建物を指します(Q&A問3、趣旨説明)。分譲マンションは通常これに当たります。
一棟の区分所有建物に存する居住の用に供する専有部分一室に係る区分所有権(区分所有法第2条第1項に規定する区分所有権をいい、当該専有部分に係る同条第4項に規定する共用部分の共有持分を含む。)及び敷地利用権(同条第6項に規定する敷地利用権をいう。)をいう。
ここで引かれているのは区分所有法2条6項の「敷地利用権」であり、不動産登記法上の「敷地権」ではありません。
次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める面積をいう。
イ 一棟の区分所有建物に係る敷地利用権が、不動産登記法第44条第1項第9号に規定する敷地権である場合 一室の区分所有権等が存する一棟の区分所有建物の敷地(区分所有法第2条第5項に規定する建物の敷地をいう。)の面積に、当該一室の区分所有権等に係る敷地権の割合を乗じた面積(小数点以下第3位を切り上げる。)
ロ 上記イ以外の場合 一室の区分所有権等が存する一棟の区分所有建物の敷地の面積に、当該一室の区分所有権等に係る敷地の共有持分の割合を乗じた面積(小数点以下第3位を切り上げる。)
通達は「敷地権である場合(イ)」と「それ以外の場合(ロ)」を最初から分けて定めています。
敷地権の登記がない区分所有建物は、通達の設計段階から織り込まれており、ロにより土地の共有持分の割合で敷地利用権の面積を求めることになります。
国税庁の「居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A」(令和6年5月)も、問5の4(敷地持分狭小度)で「(1)敷地権である場合」「(2)上記(1)以外の場合」に分けて説明し、問11を「具体例2 敷地利用権が敷地権でない場合(登記簿上、敷地権の表示がない場合)(1)」、問12を「具体例3 同(2)」として、敷地権の表示がない建物の計算例を具体的に示しています。
相談の「敷地権ではないので区分所有法の定義から外れるのではないか」という疑問は、二つの用語が別の法律の別の概念であることで解消されます。
| 用語 | 根拠 | 定義・性質 |
|---|---|---|
| 区分所有権 | 区分所有法2条1項 | 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居等の用途に供することができるものを目的とする所有権。 |
| 専有部分 | 区分所有法2条3項 | 区分所有権の目的たる建物の部分。 |
| 建物の敷地 | 区分所有法2条5項 | 建物が所在する土地及び5条1項の規定により建物の敷地とされた土地(規約敷地)。 |
| 敷地利用権 | 区分所有法2条6項 | 専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利。権利そのものの定義であり、登記を要件としない。所有権の共有持分のほか、借地権(賃借権・地上権)も含む。 |
| 敷地権 | 不動産登記法44条1項9号 | 区分建物について、区分所有法2条6項に規定する敷地利用権(登記されたものに限る。)であって、区分所有法22条1項本文の規定により区分所有者の有する専有部分と分離して処分することができないもの。敷地利用権の下位概念。 |
敷地権は「敷地利用権のうち、分離処分が禁止され、かつ建物の表題部に登記されたもの」であり、敷地権でない敷地利用権は当然に存在します。
専有部分を所有するために持っている土地の共有持分は、登記簿に敷地権と表示されていなくても敷地利用権に当たると解されます。
マンション評価通達1(8)が引いているのは区分所有法2条6項の敷地利用権ですから、敷地権の登記がないことをもって通達の定義から外れることにはなりません。
専有部分と敷地利用権の分離処分禁止(区分所有法22条1項本文)と、これを登記に反映する敷地権制度は、昭和58年法律第51号「建物の区分所有等に関する法律及び不動産登記法の一部を改正する法律」(昭和59年1月1日施行)で創設されました。
それ以前に分譲された建物では、専有部分は建物登記簿に、土地の共有持分は土地登記簿に、それぞれ別に登記されるのが通常でした。
附則5条の「政令で定める日」は昭和63年中の日付です(解説資料では昭和63年12月28日とされています。政令番号は原典で確認してください)。附則5条の文言上、昭和64年以降の日付にはなりません。
法務大臣の指定を受けず、敷地権の登記もされていない建物は、法律上「分離処分可能規約があるもの」とみなされた状態にあります。
このため22条1項本文の分離処分禁止が及ばず、不動産登記法44条1項9号の敷地権の要件(分離処分できないもの)も満たさないため、土地の共有持分が土地登記簿に個別に登記されたまま残っています。
それでも、区分所有法2条6項の敷地利用権(所有権の共有持分)を持つ区分所有建物であることに変わりはなく、区分所有法の適用対象から外れるわけではありません。
なお、区分所有者集会で分離処分可能規約を廃止し、建物の表題部に敷地権の表示の変更登記を申請すれば、現在でも敷地権化は可能と説明されています(登記手続は司法書士に確認が必要です)。相続税評価のために敷地権化する必要はありません。
マンション評価通達の適用除外は次のとおりです。敷地権の有無は除外事由に挙げられていません。
| No | 除外されるもの | 根拠 | 本件での確認 |
|---|---|---|---|
| 1 | 区分建物の登記がされていないもの(一棟所有の賃貸マンション、小口化商品等) | 通達1(7)、Q&A問3 | 分譲で区分建物の登記があれば該当しない。 |
| 2 | 居住の用に供する専有部分がないもの(事業用テナント物件等) | 通達1(7)、Q&A問3注 | 登記簿上の種類に「居宅」を含むかが目安。種類が「共同住宅」のものは原則「専有部分一室」に当たらないとして差し支えないとされるため、昭和50年代の建物は種類の表記を確認する。 |
| 3 | たな卸商品等に該当するもの | 通達1(8)注、評基通133 | 個人の保有であれば通常該当しない。 |
| 4 | 地階を除く階数が2以下のもの | 通達1(7) | 登記簿の総階数で確認。 |
| 5 | 居住用の専有部分一室の数が3以下で、その全てを区分所有者又はその親族の居住の用に供するもの | 通達1(7)、Q&A問4 | いわゆる二世帯住宅等の除外。分譲マンションでは通常該当しない。 |
| 6 | 評価乖離率が零又は負数となるもの(評価しない) | 通達2・3ただし書、Q&A問6 | 区分所有者が全専有部分と敷地のいずれも単独所有する場合の敷地利用権は補正率1が下限(通達2注1)。 |
| 評価水準 | 区分所有補正率 | 評価額への影響 |
|---|---|---|
| 0.6未満 | 評価乖離率 × 0.6 | 増額 |
| 0.6以上1以下 | 補正なし | 変わらない |
| 1を超える | 評価乖離率(1未満) | 減額 |
通達の趣旨説明は「評価水準が1を超える場合とは、補正前の評価額が予測した市場価格を超える場合のことであり、この場合の区分所有補正率は1未満となるから、評価額を減額させる計算となる」と明記しています。
この通達は増額方向にも減額方向にも働く設計です。
昭和55年築の建物は、令和8年中の課税時期で築46年前後(1年未満切上げ)となり、A=△1.518と大きな減算項になります。
| 総階数 | 所在階 | 狭小度 | A | B | C | D | 評価乖離率 | 評価水準 | 補正率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 5 | 3 | 0.3 | △1.518 | 0.036 | 0.054 | △0.359 | 1.433 | 0.698 | 補正なし |
| 3 | 1 | 0.9 | △1.518 | 0.021 | 0.018 | △1.076 | 0.665 | 1.504 | 0.665 |
| 10 | 8 | 0.2 | △1.518 | 0.072 | 0.144 | △0.239 | 1.679 | 0.596 | 1.007 |
要件に該当する以上は適用して計算するものであり、適用の有無を有利不利で選べる性質の通達ではないと解されます。
特に補正率が1未満となる場合は、通達を適用しないと過大申告になるおそれがあります。
通達1(9)ロは、登記簿上の「敷地の共有持分の割合」をそのまま乗じる建付けです。専有部分の床面積割合と一致していることは要件ではありません。
旧法建物では持分と床面積が不均衡なこともありますが、その場合も実際の共有持分の割合で敷地利用権の面積(ひいては敷地持分狭小度)を計算すると考えられます。
| 状況 | 取扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 区分所有者が同じ建物内に複数戸を所有している | 土地登記簿には合計の持分が表示されるため、一室に対応する持分に分けて計算する。 | Q&A問5注3、問11 |
| 専有部分を夫婦等で共有している | 世帯合計の持分で敷地持分狭小度を計算したうえで、評価額を各人の持分で按分する。 | Q&A問12 |
| 敷地利用権が借地権(賃借権・地上権)である | 賃借権等の準共有持分の割合を乗じる。 | Q&A問5注2 |
| 計算明細書の記載 | 「(7)敷地権の割合(共有持分の割合)」欄に、一室に対応する共有持分の割合を記載する。 | Q&A問11・問12 |
その第三者の持分は「専有部分を所有するための」権利ではないため、区分所有法2条6項の敷地利用権に当たりません。通達の対象外となり、通常の共有土地として評価する(評基通2)ことになると考えられます。
分離処分可能規約がみなされている旧法建物では、土地持分だけが専有部分と別に移転している可能性があるため、土地共有者と建物区分所有者の一致を登記簿で確認してください。
敷地利用権は賃借権となり、その準共有持分の割合で面積を計算します(Q&A問5注2)。底地には通達の適用はありません(Q&A問8)。
分離処分の結果として敷地利用権を失っている場合は、通達が想定する「区分所有権及び敷地利用権」の組合せが崩れています。通達・Q&Aに明示がないため、個別の検討が必要です。
敷地の面積は、登記簿上の敷地面積に私道部分等が含まれていてもそれによって差し支えなく、離れた場所にある規約敷地は含めません(Q&A問5注1)。敷地が複数筆でも一体利用されていれば合計地積を基礎にすると考えられます。
相続税法22条は財産の価額を取得の時における時価によると定め、財産評価基本通達1は、時価を不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額とし、評価通達の定めにより評価するとしています。
マンション評価通達は評価通達の特則であり、自用地としての価額(評基通25(1))と自用家屋としての価額(評基通89等)に区分所有補正率を乗じた額を、それぞれ「自用地としての価額」「自用家屋としての価額」とみなして評価通達を適用する構造です(通達2・3)。
貸家建付地・貸家(評基通26・93)や小規模宅地等の特例の基礎にも、補正後の価額が用いられます(Q&A問7)。
通達適用後の価額についても評基通6(著しく不適当な場合)の適用は否定されておらず、逆に通達による評価が適当でない場合に鑑定評価等によることもできるとされています(Q&A問9)。
令和7年法律第47号による区分所有法改正(区分所有法の改正部分は令和8年4月1日施行。一部規定は令和9年4月1日施行)は管理・再生に関する改正で、2条・22条の定義や分離処分禁止の枠組みは変更されていません。マンション評価通達は評価乖離率の算式の適時見直しを予定していますが(通達2注2)、令和8年10月8日時点で改正は確認できていません。
通達本文。1(7)(8)(9)の用語定義、1(11)(12)の算式、2・3の補正率。
問3(区分建物の登記がないもの)、問4(除外)、問5(各要素の計算。注1〜注3)、問6(乖離率が零又は負数)、問7(貸家建付地等)、問8(底地)、問9(評基通6)、問10〜問12(具体例。問11・問12が敷地権でない場合)。
令和8年4月1日施行の改正内容の確認用。2条・22条の枠組みは変更なし。